肺炎球菌ワクチン(小児・成人)

免疫の低下で症状を引き起こす肺炎球菌

肺炎球菌は、乳幼児の鼻や喉で見つかることが多い細菌です。せきやくしゃみで他の人にうつります。菌を持っていてもすぐに病気になるわけではありませんが、免疫の働きが低下していると、肺炎や気管支炎、中耳炎、敗血症、髄膜炎などを引き起こします。
厚生労働省によると、2022年の日本人の死因の第5位が肺炎。成人肺炎の原因菌の約2~3割を占めるのが肺炎球菌であると報告されています。
※病気の詳細はこちら

小児と65歳以上の高齢者に定期接種

肺炎球菌の感染で重症化のリスクが高い子どもと高齢者を対象に、市町村が費用を負担する「定期接種」が行われています。子どもの定期接種は2013年、高齢者の定期接種は2014年に始まりました。
子どもの定期接種は、生後2カ月〜5歳未満の間に、計4回受けることができます。
高齢者の定期接種は65歳、または60~64歳で心臓や腎臓、呼吸器、免疫(ヒト免疫不全ウイルスによる)の機能に障害がある方が対象です。

小児用、高齢者用の定期接種ワクチンは異なる

肺炎球菌の定期接種で使われるワクチンは、小児では13価肺炎球菌ワクチン(2024年9月30日まで)、15価肺炎球菌ワクチン、20価肺炎球菌ワクチン(2024年10月1日から)が使用されます。一方で、高齢者は23価肺炎球菌ワクチンが使用されます。肺炎球菌には90以上の種類があり、このうち何種類の成分を含んでいるのかを価数で示しています。
13価肺炎球菌ワクチンおよび15価肺炎球菌ワクチンは高齢者でも使用できますが、その場合は自分で費用を負担する「任意接種」となります。20価肺炎球菌ワクチンは高齢者の使用が承認されていません。また、23価肺炎球菌ワクチンは2歳未満の使用が承認されていません。
肺炎球菌ワクチンは、いずれも細菌の感染性をなくした「不活化ワクチン」です。

<肺炎球菌ワクチンを製造しているメーカー>
・MSD株式会社(15価肺炎球菌ワクチン、23価肺炎球菌ワクチン)
・ファイザー株式会社(13価肺炎球菌ワクチン、20価肺炎球菌ワクチン) (50音順)

ワクチン導入後、子どもの重篤例が54%減

肺炎球菌に感染して現れる症状は多岐にわたりますが、血液や髄液など本来無菌でないといけない部分から菌が検出される症状を、侵襲性肺炎球菌感染症(IPD)といい、特に問題とされています。
日本で行われた調査では、5歳未満のIPD発生率が、ワクチン導入前と後で54%減少したという報告があります。

ワクチン全般における副反応の種類と対策・対応

ワクチンを接種して期待される免疫効果と同時に、接種箇所の赤み、はれ、痛み等の望ましくない局所反応や発熱、リンパ節腫脹等の全身反応を惹起することが多く、これらは“副反応”と呼ばれています。
ワクチンの種類によっても異なりますが、発熱、接種箇所の赤み、はれ、しこり、発疹などが比較的高い頻度(数%から数十%)で認められます。通常、数日以内に自然に治るので心配の必要はありません。ただし、接種箇所のひどいはれ、高熱、ひきつけなどの症状がある場合は、医師の診察を受けてください。
ワクチンの種類によっては、極めてまれ(百万から数百万人に1人程度)に脳炎や神経障害などの重い副反応が生じることがあります。このような場合、健康被害を受けた本人やその家族が救済の請求を行うことで、審査が行われ、認定されたときは給付の対象となります。定期接種の場合は、予防接種法に基づく健康被害救済の対象となるため、救済の請求は、予防接種を受けたときに住民票を登録していた市区町村に対して行います。一方、任意接種の場合は、独立行政法人医薬品医療機器総合機構法に基づく救済の対象となるため、救済の請求は独立行政法人医薬品医療機器総合機構に対して行います。
ワクチンを接種した後はその場でしばらく様子を見ること、帰宅後もすぐに医師と連絡をとれるようにしておくことが必要です。

参考文献
・厚生労働省「令和4年(2022)人口動態統計(確定数)の概況」p15
https://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/jinkou/kakutei22/dl/15_all.pdf
・厚生労働省ホームページ“肺炎球菌感染症(高齢者)”
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/kenkou/kekkaku-kansenshou/haienkyukin/index_1.html
・厚生労働省ホームページ“肺炎球菌感染症(小児)”
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/kenkou/kekkaku-kansenshou/pneumococcus/index.html
・中込治 神谷茂 錫谷達夫「標準微生物学 第13版」.医学書院.2018.P129
・厚生労働省リーフレット「肺炎の主要な原因である肺炎球菌の感染症を予防できるワクチンがあります」
https://www.mhlw.go.jp/content/10900000/001086212.pdf
・第61回厚生科学審議会予防接種・ワクチン分科会予防接種基本方針部会 2024年7月18日資料1「小児に対する肺炎球菌ワクチンについて」
・一般社団法人日本ワクチン産業協会「2023予防接種に関するQ&A集」2023.p75、p100
・(公財)予防接種リサーチセンター「予防接種と子どもの健康 2024年度版」から転載(一部改変)
・厚生労働省 予防接種健康被害救済制度について(2024/5/29閲覧)
・独立行政法人医薬品医療機器総合機構 医薬品副作用被害救済制度に関する業務 Q&A (2024/5/29閲覧)

執筆:2021年9月
最終更新:2024年9月
文責:一般財団法人阪大微生物病研究会

感染症

  1. トップトップ
  2. 肺炎球菌ワクチン(小児・成人)