麻しん(はしか)

ワクチン2回接種が実施されてから減少傾向

 麻しんウイルスによる感染症で、39℃以上の高熱と発疹が出ます。日本では2000年前後に流行し、年間約20~30人の死亡例がありました。しかし、2006年に麻しん風しん混合ワクチン(MRワクチン)の2回接種が実施され、さらに、2008年から2013年にかけて、麻しんのワクチン接種機会が1回だった世代を対象に2回目の接種を実施したため、麻しんの発生数は大幅に減少しました。

症状:感染力が強く不顕性感染はほとんどなし

 10~12日の潜伏期間の後、ほぼすべての人が発症します。感染しても発症しない不顕性感染はほとんどありません。38℃程度の発熱と風邪症状が2~4日続き(カタル期)、いったん体温が1℃ほど下がった後、再度39℃以上の高熱(二峰性発熱)を発するとともに発疹が現れます(発疹期)。合併症として肺炎や中耳炎があり、まれに(1,000例に0.5~1例程度)急性脳炎を発症するとされます。

感染経路:主な経路は空気感染

患者のせきやくしゃみによる飛まつ感染や、ウイルスが付着した手で口や鼻に触れて感染する接触感染もありますが、麻しんの主な感染経路は空気感染です。麻しんウイルスは感染力が非常に強く、麻しん患者の分泌物からエアロゾル化した麻しんウイルス粒子は感染力を保ちつつ1時間以上空気中を浮遊します。患者が周囲に感染させるのは、発疹が出現する4日前から発疹出現後4~5日くらいまでで、感染力が最も強いのは発疹出現前のカタル期です。

病原体:2010年以降は海外からの輸入ウイルスが主

 麻しんウイルスは、A~Hのクレード、24の遺伝子型に分類され、日本ではD5型が流行し、土着株とされていました。しかし、ワクチン2回接種法の導入などにより患者数は激減し、2010年以降、D5型は確認されておらず、2015年3月に日本はWHO西太平洋地域事務局により麻しん排除状態にあると認定されました。現在の日本国内の発症例は海外からの輸入例によるものだとみなされています。
 ヒトにしか感染しない麻しんウイルスは、予防に有効なワクチンを全世界の人々に接種すれば天然痘のように撲滅することが可能と考えられており、WHOが撲滅に向けたプログラムを展開しています。

治療・予防

現在でも有効な抗ウイルス薬はなく、対症療法が中心です。中耳炎や肺炎など細菌が原因の合併症を起こした場合は抗菌薬が必要となります。
ワクチン接種による予防が最も重要であり、麻しん含有ワクチンは、1回接種で93~95%以上、2回接種で97~99%以上の人が抗体を得ることができる、有効なワクチンです。

執筆:2021年9月
文責:大阪大学微生物病研究所

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