ウイルスや細菌は攻撃するけど、自分の細胞は攻撃しない?

免疫細胞は自分の細胞の目印を覚えていて攻撃しないようにしています。しかし、ときどき自身を攻撃してしまうことがあり、自己免疫疾患と呼ばれます。

免疫の本質は正常な自己と非自己を見分けて後者を排除することです。したがって自分自身を攻撃しては大変なことになります。免疫細胞、特に免疫の司令塔と呼ばれるTリンパ球(T細胞)はこの点をしっかり教育されてから免疫細胞として活動を始めます。その「自分とは何か?」を学ぶ器官が胸腺です。胸腺ではまず自身の細胞表面にある「自分のマーク(MHC分子)」を覚えます。その後、ヘルパーT細胞とキラーT細胞に分かれますが、どちらも最終試験をクリアしなければ胸腺で殺されてしまいます。その試験とは、自身が持つ抗原を提示されても反応しないことです。つまり自身の目印を覚えた上で外敵と区別が可能なT細胞だけが免疫細胞としてデビューできるというわけです。

これだけの訓練を受けても、免疫細胞は完璧ではありません。自身の細胞や関節組織、時にはDNAを敵と間違えて攻撃する免疫細胞がいます。これらは、自己抗原への反応ということで自己免疫疾患と呼ばれます。また、もともと自分自身だった「内なる非自己」であるがん細胞や、T細胞に感染して機能を奪うヒト免疫不全ウイルス (HIV) に対しても免疫は弱められます。これらは生死の問題であると同時に免疫システムの根幹に関わるもので研究が続いています。

執筆:2021年9月
文責:大阪大学免疫学フロンティア研究センター・微生物病研究所
イラスト:長門香織

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