エムポックス(サル痘)ってどんな病気?
ヒトへの感染は1970年にザイールで確認
エムポックス(サル痘)はもともとサルの病気として知られていました。1970年にヒトへの感染がザイール(現コンゴ民主共和国)で報告され、以降中央アフリカや西アフリカで流行が確認されました。当初、アフリカ以外の地域での感染は主に渡航者が持ち帰る例に限られていましたが、2022年以降は海外渡航歴のない患者が世界各地で報告されています。
近年、流行が拡大しています。世界保健機関(WHO)は2022年7月~2023年5月に緊急事態を宣言し、2024年8月にも再び緊急事態宣言を発出しています。世界での感染者数は2024年7月現在で10万人以上に達しました。重症化しやすい新しい系統が現れており、世界的な流行を防ぐための対策が必要となっています。
日本でも2022年7月に1例目の患者が確認されて以降、散発的に患者が現れています。
病気の名称は「サル痘」が使われていましたが、WHOが2022年11月、差別や偏見を避ける目的で「エムポックス」(mpox)と呼ぶよう推奨し、厚生労働省は2023年5月から新名称を採用しています。
エムポックスに対して、天然痘ワクチンが有効であることが確認されています。エムポックスの流行は、天然痘の撲滅によって天然痘ワクチン接種が中止されたことで、有効な免疫を持たない人が増加したことが一因とされています。
Our World in Data: Monkeypox
症状:天然痘と見分けがつきにくい
潜伏期間は7〜14日(短い場合5日、長い場合21日のこともある)で、発疹、発熱、発汗、頭痛、リンパ節の腫れなどの症状が先に現れてから水疱(みずぶくれ)を伴う発疹が現れる例が多く報告されています。多くの場合、2~4週間で自然に回復します。
致死率は、コンゴ民主共和国での大流行では数%と報告されています。
2022年5月以降の流行では、「発疹が先に見られる」「発疹以外の症状を伴わない」など従来とは異なる症状も報告されています。
感染経路:接触感染が主。飛沫感染も確認
エムポックスは、主に感染した動物や人の血液、体液、皮膚の水疱に触れることで感染します。ヒトからヒトへの感染には濃密な接触が必要で、2022年7月に報告された症例では性的交渉による感染が主な感染経路(95%)とされています。
このため飛沫感染やエアロゾル感染が主な感染ルートである新型コロナウイルスのような爆発的な感染拡大はないと考えられていますが、感染した人のせきやくしゃみなどによる飛沫感染も確認されているため、継続した調査が必要です。
病原体:天然痘と同じオルソポックスウイルス属
エムポックスウイルスは、レンガ状の巨大なDNAウイルスで、直径は300nmを超えます(インフルエンザウイルスやコロナウイルスは100〜200nm程度)。サルから見つかったため当初は「サル痘」と命名されましたが、自然界ではリスやネズミなどのげっ歯類が主要な宿主であると考えられています。
治療・予防:天然痘ワクチンが有効
日本では、承認された治療薬はありません。米国や欧州では「テコビリマット」という抗ウイルス薬が承認され、治療に使われています。日本でもこの薬の臨床研究が行われています。
予防には天然痘ワクチンが有効です。日本では1976年以降、天然痘ワクチンの定期接種(最初の接種は1歳児)は行われていないため、50歳未満の人はエムポックスに対する免疫がありません。日本では2002年以降、天然痘によるバイオテロ対策として天然痘ワクチンが製造、備蓄されています。
参考サイト:国立感染症研究所「サル痘とは」
2024年10月
執筆:根本 毅
監修:森川 茂先生
文責:大阪大学微生物病研究所
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