ヒトパピローマウイルス(HPV)感染症ってどんな病気?

ヒトパピローマウイルス(HPV)が感染して起こる病気を総称して、ヒトパピローマウイルス(HPV)感染症と呼びます。

 ヒトパピローマウイルス(HPV)が感染して起こる病気を総称して、ヒトパピローマウイルス(HPV)感染症と呼びます。子宮頸がんが有名ですが、肛門がんや外陰部がん、膣がん、陰茎がん、中咽頭がん、尖圭(せんけい)コンジローマなどの病気も含まれます。
 HPV感染症は、一般的な性感染症です。性的に活発な人はほとんどの場合、一生に一度は感染しますが、通常は症状が現れません。
 しかし、特定の種類に感染したうちの一部の人が、がんを発症してしまいます。日本では毎年、約1万1000人の女性が子宮頸がんにかかり、約2900人が亡くなっています。患者は20歳代から増え始め、30歳代までにがんの治療で子宮を失ってしまう人も年間約1000人います。HPVと関連がある中咽頭部(舌根、口蓋、扁桃、中咽頭)のがんも年間約4800例が診断され、約1300人が亡くなっています。
 全世界では毎年、約60万人の女性と約7万人の男性がHPV関連のがんを発症していると推定されています。
 HPVが原因のがんの予防には、ワクチン接種が有効です。また、検診でがんを早期に発見することで、治療の効果が高まります。

症状:ほとんどの場合は症状なし

 HPVに感染すると、ほとんどの場合は症状がなく、ウイルスは自然に排除されます。しかし、一部は皮膚や肛門、性器などのイボの原因になります。多くの場合、イボは他の症状を伴いませんが、痛みやかゆみ、出血や腫れが生じることもあります。尖圭コンジローマは性器周辺や肛門周辺にイボができる病気ですが、イボが大きくなってカリフラワーやとさかのような形になることがあります。
 また、一部の種類のHPVはがんの原因になります。この種類のウイルスが排除されずに子宮頸部に感染した状態が続くと、細胞が変化してがんになる場合があります。感染してから子宮頸がんが発症するまで、通常は15~20年かかるとされています。

感染経路:主に性的接触によって、皮膚や性器、喉に感染します。

 それ以外にも、母子感染や手による感染など多くの感染経路が存在します。ウイルスは皮膚や粘膜の小さな傷から侵入して感染します。

病原体:HPVは人の皮膚や粘膜に存在するありふれたウイルスです。

 大きさ約55ナノメートル(ナノは10億分の1)の球状で、中にDNAを含みます。人以外には感染しません。
イボの原因ウイルスとしてよく知られていましたが、1982年にドイツのハラルド・ツアハウゼン博士が、子宮頸がんの原因のほとんどがHPVの感染であることを発見しました。この功績により、博士は2008年のノーベル生理学医学賞を受賞しています。
 HPVは200以上の種類(遺伝子型)が知られています。このうち、子宮頸がんの原因となる15種類は「高リスク型HPV」と呼ばれます。高リスク型の中でも、16型と18型が子宮頸がんの原因の50~70%を占めます。
 高リスク型が長期間感染していると、がんになる手前の「前がん病変」になり、その後にがんに移行する可能性があります。
 イボの原因となるのは別の種類です。尖圭コンジローマは6型と11型が引き起こします。

治療・予防

 子宮頸がんなどのがんの治療法には、手術、放射線療法、抗がん剤治療があります。子宮頸がんなどHPVが原因のがんは、早期に見つかれば根治が可能です。イボの治療が必要な場合には、レーザー手術や凍結療法などが用いられます。
予防策としては、HPVワクチンが効果的です。ワクチンで、感染したウイルスを排除することはできないため、感染前の若い年齢層に対する接種が推奨されています。また、安全な性行動、例えばコンドームの使用も重要です。
 日本では、小学校6年~高校1年生に相当する年齢の女性は定期接種として公費でワクチン接種が受けられます。
 ワクチンには2価ワクチン、4価ワクチン、9価ワクチンの3種類があります。2価ワクチンと4価ワクチンは、子宮頸がんを起こしやすい16型と18型の感染を防ぐことができ、子宮頸がんの原因の50~70%を予防できます。9価ワクチンは2023年4月から公費で受けられるようになったワクチンで、16型と18型に加えて別の7種類のHPVの感染も防ぎ、子宮頸がんの原因の80~90%を予防できます。ただ、ワクチンで全ての子宮頸がんを防げるわけではないため、子宮頸がん検診を定期的に受ける必要があります。
 極めてまれですが、予防接種を受けた人に重い健康被害が生じた事例が報告されています。まずは、子宮頸がん、HPVワクチンのメリットとリスク、子宮頸がん検診について知ることが大切です。

関連サイト

大阪大学感染症総合教育研究拠点(CiDER)HPV関連情報
https://www.cider.osaka-u.ac.jp/plus-cider/category/hpv/

<参考>
WHO Fact sheets  Human papillomavirus and cancer
https://www.who.int/news-room/fact-sheets/detail/human-papilloma-virus-and-cancer
国立感染症研究所「尖圭コンジローマとは」
https://www.niid.go.jp/niid/ja/kansennohanashi/428-condyloma-intro.html 
厚生労働省HPVワクチンリーフレット(詳細版、2023年3月改訂版)
https://www.mhlw.go.jp/content/10900000/000901220.pdf

執筆:2023年11月
文責:大阪大学微生物病研究所

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