ラッサ熱ってどんな病気?

ラッサウイルスというウイルスが原因の感染症です。

ラッサウイルスが原因の感染症で、発熱、出血傾向、血管透過性の亢進(※)を起こし、臓器の機能不全に至るケースもあります。西アフリカ諸国で流行しており、年間約90万人が感染すると推定されています。流行地以外でも、これまでに36例(2019年までの集計)の輸入例が報告されています。日本でもシエラレオネからの帰国者が発症した例が1987年に報告されています。

(※)血管透過性の亢進(こうしん)
ウイルス感染などによる炎症で血管が拡張すると、血管をつくる細胞どうしのつながりがゆるみ、血漿(血球を除いた血液の液性成分)が漏れ出て組織内が水浸し状態になります。この状態を「血管透過性の亢進」と言います。

症状:軽症では発熱と倦怠感、消化器症状が主、重症化すると死に至ることも

徐々に症状が現れ、最初に発熱や全身倦怠感、続いて3〜4日目に関節痛や腹痛があらわれます。頭痛や咳、喉の痛み、おう吐、下痢などもよく見られる症状です。回復する患者は4〜7日で熱が下がりますが、重症化すると出血傾向や血管透過性の亢進による肺水腫や顔面浮腫、ショック、脳症(てんかん、振戦、昏睡)などをおこし、死亡することもあります。妊婦は重症化しやすいことが知られています。また、後遺症として難聴が生じる場合があります。

感染経路:自然界ではマストミスというネズミがウイルスを保有

流行地域に生息するマストミスというネズミがウイルスをもっていて、排泄物中に大量のウイルスが放出されます。ネズミはこのウイルスをもっていても病気になりません。ウイルスに汚染されたものが傷口や粘膜に接触したり、ウイルスを含むエアロゾルを吸入したりすることによってヒトに感染します。また、ウイルスに汚染された食品を摂取しても感染します。院内感染や家族内感染でのヒト−ヒト感染も生じます。

病原体:研究のためにウイルスを扱うには最高レベルの封じ込め施設(BSL4施設)が必要

ラッサウイルスはアレナウイルス科というウイルスの仲間に分類されます。アレナウイルス科にはラッサウイルス以外にもウイルス性出血熱症を引き起こすものがあります。アルゼンチン出血熱やベネズエラ出血熱、ボリビア出血熱、ブラジル出血熱、チャパレ出血熱の原因となるアレナウイルスがそれぞれ南米で確認されています。これら5種類のアレナウイルスを総称して南米出血熱ウイルスと呼びます。ラッサウイルスや南米出血熱ウイルスは、バイオセーフティレベル(Biosafety Lebel, BSL)4に分類されていて、その取り扱いは最高レベルの封じ込め施設(BSL4施設)で実施するよう定められています(麻疹ウイルスはBSL2、新型コロナウイルスはBSL3)。世界的に見てもBSL4施設は限られた数しか設置されていません。研究を効率的に進めるために、ラッサウイルスと近縁で、BSL2施設で取り扱うことのできるリンパ球性脈絡髄膜炎ウイルス(LCMV)がラッサウイルスのモデルウイルスとして研究に用いられます。
アレナウイルス科の中で、哺乳動物に感染するものは「哺乳類アレナウイルス」に分類されます。

ラッサウイルスが含まれる「哺乳類アレナウイルス」について詳細はこちら

大阪大学微生物病研究所 新興ウイルス感染症研究グループ
ラッサウイルスなどアレナウイルスが病気を起こすメカニズムを解明し、抗ウイルス薬やワクチン開発を目指して研究を行っています。

治療・予防:

ラッサ熱に適応のある抗ウイルス薬は存在しませんが、実際に患者が発生した際には「リバビリン」という抗ウイルス薬が用いられます。しかし、リバビリンのラッサ熱に対する効果や副作用には懸念があり、安全で効果的な新規抗ウイルス薬の開発が急がれます。ワクチンは現在開発中でまだ実用化されていません。

現在大阪大学微生物病研究所で行われているワクチン開発研究詳細はこちら

新興ウイルス感染症研究グループによる研究成果「次世代ラッサウイルス弱毒生ワクチン候補株を開発」

執筆:2022年7月
文責:大阪大学微生物病研究所

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