ノロウイルス感染症ってなに?

下痢を引き起こすウイルスで、日本では秋冬に流行

ノロウイルスはロタウイルスと同様に下痢を引き起こすウイルスで、食中毒の主要な原因因子の一つです。ノロウイルスの感染は通年認められますが、日本など北半球の国々ではでは主に秋〜冬にかけて流行します。一方、赤道付近の国々では、その様な季節性の流行はありません。
微生物病研究所では、熱帯地域で流行する感染症の制御・制圧を目指しタイに設置された研究拠点「日本・タイ感染症共同研究センター」で、タイ保健省医科学局の研究者とともにノロウイルスも含めた病原体の研究を推進しています。

症状:症状の重さ・軽さは個人差あり、通常1〜3日で回復

下痢症状の重さ軽さは個人差が大きくありますが、通常は1〜3日で回復します。ただし、乳幼児や高齢者では脱水により重症化することもあります。医療体制が十分でない発展途上国では、毎年数万人の乳幼児がノロウイルス感染により死亡していると推定されています。ノロウイルス感染は嘔吐を伴うことも多く、特に高齢者において誤嚥性肺炎を併発することもあり、注意が必要です。ノロウイルスに対する免疫は二年程度しか持続しないと考えられています。ノロウイルスには抗原性の異なる多様な型が存在します。また、ゲノム変異により抗原性が変化した新たな型が出現しているため、一度感染しても再び感染することがあります。

感染経路:感染力が強く、わずかなウイルス量で感染

自然界では二枚貝が感染者から排泄されたウイルスを濃縮しており、これを生食すると感染します。また、感染者の便や吐物や、水洗トイレの飛沫などから感染します。感染力が強いウイルスで、ボランティア被検者による検証から100個〜1000程度で50%のヒトが発症することが知られています。身近に感染者がでた場合にはこまめな手洗いや食品の十分な加熱など注意が必要です。

病原体:近年ウイルスの増殖法が開発、今後の研究の進展に期待

ノロウイルスはエンベロープを持たないノンエンベロープウイルスで、通常のアルコールでは消毒できず、次亜塩素酸ナトリウムが有効です。また、最近、大阪大学微生物病研究所の研究者がアルカリ性または酸性のアルコールがノロウイルスを不活化できることを実証しました(※1)。

ノロウイルスは長い間試験管内で増殖させることができず、実験による科学的検証が困難でした。近年、遺伝子からウイルス粒子を作る技術(リバースジェネティクス)や、幹細胞から作製したヒト腸管上皮細胞を用いてウイルスを増殖する技術が開発され(※2)、今後の研究の進展が期待されます。

※1 研究成果:ヒトノロウイルスが酸性アルコールにより不活化されることを実証

※2 研究成果:iPS細胞株由来の腸管上皮細胞を用いたヒトノロウイルス増殖法を確立

治療・予防:

ノロウイルスに対する治療薬はまだありません。ワクチンは複数の製薬メーカーにより開発中です。感染予防のポイントはカキなどの二枚貝は中心部まで十分に加熱すること(60℃の加熱では不十分)や、トイレの後や調理・食事の前は十分に手を洗うことです。

執筆:2022年6月
文責:大阪大学微生物病研究所

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