腸炎ビブリオってなに?
海に生息し、魚介類に付着。
腸炎ビブリオは海水に生息する細菌で、1950年に大阪南部で発生した大規模食中毒事件「しらす中毒事件」の原因菌として微生物病研究所藤野恒三郎教授(当時)によって発見されました。魚介類に付着するため、腸炎ビブリオが原因の食中毒は、ほとんどが海産物の生食によるもので、夏場の発生が多く見られます。
症状:ひどい腹痛と下痢が特徴
潜伏期間は12時間前後で、主症状は耐え難い腹痛と下痢、しばしば発熱、嘔吐がみられます。下痢などの主症状はほとんどが数日でよくなり回復します。高齢者では低血圧や心電図異常が確認されることもあり、死に至ることもあります
感染経路:海水に生息するため、細菌は魚介類に付着
腸炎ビブリオが付着した食品(主に魚介類)や、細菌が付着した魚介類を扱った器具などから感染します。2001年に食品衛生法が改正され、鮮魚介類などの食品に対して「腸炎ビブリオの規格基準」が設けられました。基準により「保存温度を低温に徹底する」「加工の際には殺菌した海水を使用する」など生産から消費までの過程において十分な対策がとられるようになった結果、近年の発生例は減少しています。
病原体:コレラ菌と同じビブリオ属
コレラ菌などと同じビブリオ属に分類される細菌で、海水に生息しています。発育に塩分を必要とするのが特徴で、3〜5%の塩分を含んだ培養液の中でよく増えます。通常は一本の長いべん毛を持ち水中を泳ぎ回りますが、条件によっては菌体の周りに短めのべん毛(側べん毛)をもつこともあります。
1950年藤野恒三郎による発見以降、門下の研究者により解析が続けられ、下痢を引き起こすメカニズムなど様々なことがわかってきました。
<専門的な内容を知りたい方はこちら>
細菌感染分野(飯田研):腸炎ビブリオがヒトに感染し、病気を引き起こすメカニズムについて研究を展開
食中毒菌・腸炎ビブリオの新たな下痢誘導メカニズムを解明:飯田研が英国科学雑誌Nature Microbiology誌に発表した研究成果
治療・予防:生食の魚介類は注意しましょう。
10℃以下では増えず、煮沸により死滅するので、食品の低温保存や、十分な加熱処理により感染を防ぐことができます。水温15℃を超えると発生頻度が高まり、夏季が発生のピークです。世界に広く分布する細菌で、衛生環境の良くない地域での滞在中は、魚介類の生食をさけるなど注意が必要です。予防ワクチンは現段階では開発されていません。
ほとんどが数日で自然治癒しますが、重症例では抗菌薬(ニューキノロン系)が投与されることもあります。
執筆:2022年5月
文責:大阪大学微生物病研究所
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