新型コロナウイルスに感染するとなぜ血管に症状が出るの?

新型コロナウイルスが感染した場所(喉や肺など)では炎症がおきます。炎症は体を守るための反応ですが、過度になると細胞を傷つけてしまうことがあります。このとき血管の細胞も傷つきます。さらに、傷ついたところから血液が漏れるのを防ぐため、血栓ができます。

通常の血管と炎症状態の血管

炎症はどのように起こるのでしょうか。ウイルスなどの外敵が体内に入ると、排除するために免疫細胞の白血球(マクロファージや好中球など)が出動します。さらに、免疫反応を起こす「サイトカイン」というタンパク質も分泌されます。このサイトカインは血管の細胞同士の結合をゆるめて、血管から組織に免疫細胞を移動しやすくします。

炎症を起こしていない状態では血管の外より内側の方が圧力が高く、血液中の物質は血管の細胞のわずかな隙間から漏れ出して圧力の高い方から低い方へ、血管から組織へと流れます。炎症状態になると血管の細胞同士の間が大きく開き、血管から組織へ物質が多く流れます。この状態を血管の透過性が上がっていると言います。この状態が続くと、血管内の圧が下がり、組織の圧が上がります。

さらに炎症状態が続き、サイトカインが過剰に放出される「サイトカインストーム」が生じると、サイトカインによって血管の細胞が傷つけられてしまいます。さらに、血管の中から外に物質が多く漏れて組織の圧力が高くなり、物質が組織に入っていかない状態になってしまいます。乾いた砂に水をまけばすぐに水を吸い込みますが、水を多く含んだ砂はもう水が吸い込まれないのと同じです。この水浸し状態が肺で起きれば呼吸困難をもたらす肺水腫などに至ります(図)。このような状態になると、組織に感染したウイルスまで抗ウイルス薬などが届きません。

(図)サイトカインストームが起きているときの血管

また、血管から物質が漏れ出るのを止めるため、血小板が集まります。血小板は細胞と細胞を結びつけるので血の塊ができ、それが血栓となって他の場所に飛んで血液を詰まらせることがあります。脳の血管が詰まると脳梗塞、肺の血管が詰まると肺血栓症になってしまいます。
新型コロナウイルスは血管の細胞に感染して増殖するので、血流に乗って全身に運ばれるだけでなく、血栓によって間接的に組織にダメージを与えることもあります。新型コロナウイルスの症状や後遺症が全身に及ぶのは「血管」がキーとなっています。

詳細はこちら→高倉教授に聞く「血管の異常で新型コロナが重症化?」

執筆:2021年9月
文責:大阪大学微生物病研究所

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